川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 225点眼できていますか? 2018年10月31日

眼科は高齢者が多い科です。白内障・緑内障・加齢黄斑変性症・糖尿病網膜症などの目の病気は中高年で発症しやすく、慢性疾患が多いので何年も通院し続ける必要があるからです。

治療は目薬の点眼が圧倒的に多く、内服はたまにしか使いません。

ところが、調べてみると、高齢者では目薬をきちんとさせていないことが判明しました。これは大変な事態です。

今回は「高齢者の点眼実態」を取り上げます。対策についても考えてみました。

高齢者の点眼実態

高齢者が目薬をさしている姿を撮影したビデオがあります。それを見れば、私たちが想像する以上に高齢者では点眼が困難なことがわかります。

Aさん。目薬をさそうとしますが目には入りません。二度目をさしますがまぶたにあたってしまい、やはり目には入りません。三度、四度と繰り返しますが同じです。そして、ちゃんと入っていないのに結局さすのを諦めてしまいました!

Bさん。上まぶたがかなり下がっています。しかも目薬をしようとすると急にまばたきが増えます。下まぶただけ引っ張って目薬をさそうとしますが、目薬はまぶたにあたってしまい、なかなか入りません。ようやく、まぶたに少しあたりましたがある程度黒目のほうに入りました。

Cさん。目薬の先端をまぶたにくっつけています。くっつけてから相当量があふれ出るくらいに大量にさしています。

これらの例は特別ではないようです。高齢者は目薬を上手にさせていないのです。

なぜ点眼が困難になるのか

なぜ、高齢になると目薬の点眼が困難になるのでしょうか?

点眼困難の原因の第一は老眼です。目薬のびんがぼやけて見えないのです。もちろん若い方でも目に数cmまで近づけた目薬のびんはぼやけますが、さすのに支障がない程度には見えています。ところが、老眼が進んだ正視や遠視の方では、ぼやけ方が激しくてまるで見えていないのです。ほとんど勘頼りになっています。

第二は、座位で首をのけぞることが難しくなることです。

眼球が完全に天井のほうを向き、その真上に目薬のびんを持ってくれば、あとは単純に目薬を滴下するだけで、液は必ず黒目に落ちるはずです。座ったままこれをやろうとすると、首を大きくのけぞることが必要です。

この姿勢が高齢者には難しいのです。たいていは首ののけぞりが不十分なので、眼球の斜め上から目薬をさそうとしています。それではどうしても失敗する確率が大きくなります。

そのほか、指に力が入らず、固い点眼びんが押しづらい場合もあるようです。

寝転んで点眼しよう

目薬の点眼を何度も失敗してしまう方にお勧めするのは「寝転んで点眼」です。

寝た姿勢なら努力しなくても自然に眼球が天井のほうを向きます。これが大きいのです。しかもまぶたが下がり気味の方でも、寝た姿勢では重力の関係で目を大きく開きやすくなります。

片手の人差し指と中指で目を大きく開き、目薬のびんを地面に垂直に立てた状態で黒目の真上に持ってきます。目頭や目尻でなく、黒目の中央を狙ってください。コツは「黒目の真上に目薬」です。これさえ実現できれば、あとは滴下するだけで百発百中です。

いちいち寝転ぶのは面倒に感じるかも知れませんが、点眼成功のためには「急がば回れ」です。

目薬はまぶたに触れないで

Cさんは目薬の先端をまぶたにくっつけてさしていました。こういうさし方をしている人は意外に多いようですが、問題があります。

まず、目薬の先端が黒目に触るとキズになるかも知れないという問題です。これが原因と考えられる角膜のキズは実際に起きています。

高齢者では角膜の知覚も鈍くなっているので、大きな角膜びらんや角膜潰瘍になっているにもかかわらず、ご本人に危機意識が薄く「ゴロゴロしていると思ったが放っておいた」という事例も経験します。危ないことは止めましょう。

次に、目薬の中身が汚染されるという問題です。目薬のびんを押すと中から液が出てきますが、中が陰圧になるので外の空気を吸い込みます。もしこのときにまぶたに接触していると涙やめやにも中に吸い込まれて入っていくことになります。

目薬の中には細菌感染を防ぐために防腐剤が添加してありますが、防腐剤による角膜障害が心配なので近年防腐剤はできるだけ低濃度にする傾向にあります。そのため目薬の中に入った細菌も生き残ります。つまり、細菌で汚染された目薬をさしていることになります!

家族に点眼してもらおう

いろいろ工夫しても、やっぱり上手にさせないこともあるでしょう。

そういう場合は、「誰か人に頼む」を考えてみて下さい。家族の人、施設の人、お友達にお願いすることはできませんか?

若い人が家にいなくても、例えば高齢のご夫婦だけで暮らしているという場合でも、お互いに相手の目薬をさすことを考えてみて下さい。

老眼になると自分の目薬を自分でさすことは難しくなりますが、他人に目薬をさすことは難しくありません。見えないまま勘でさすのと違い、見て確認しながらさせるのですから容易です。必要なら老眼鏡をかけることもできます。(自分にさすときはもちろん老眼鏡は使えません)

毎回頼むことはできなくても、1日1回だけ、2回だけでも家族にお願いすることはできないでしょうか。1回だけでもずいぶん違います。

ご本人は家族に頼みにくいかも知れません。それなら、家族のほうから目薬をさしてあげることを申し出てはいかがでしょう?

緑内障の方で目薬をたくさん出してもなかなか眼圧が下がらなかったのに、家族の方に点眼をお願いした途端、劇的に眼圧が下がった経験もしています。それまで、自分ではきちんとさせていなかったのですね。

点眼困難はご相談ください

点眼が困難になっていても、相談される方は少ないようです。

スタッフや医師にお話しいただければ、何らかのアドバイスが可能だと思いますので、遠慮せず、恥ずかしがらずにご相談ください。

(2018.10)