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川本眼科だより

川本眼科だより 226副作用なのか否か 2018年11月30日

薬の副作用を気にする方が以前よりも増えていると感じます。確かに副作用の問題は大事ですが、それを極端に心配しすぎて必要な薬を使わないと病気が悪化してかえって不利益を被ることになります。

副作用を論じ出すと1冊の書物になってしまいますので、ここでは、患者さんが副作用に正しく向き合うためのヒントになる事項をいくつかご紹介いたします。副作用問題を判断する参考になれば幸いです。

目薬によるアレルギー

目薬によるアレルギーは目薬の代表的な副作用です。目薬アレルギーのために点眼薬を中止することはよくあります。ほとんどのすべての目薬がアレルギーの原因になりえますが、アレルギーを起こしやすい目薬、起こしにくい目薬はあります。

目薬アレルギーは通常、充血やかゆみなどのアレルギー性結膜炎の症状、まぶたが赤くなったりまぶたが痒くなったりする眼瞼炎の症状を起こします。対処はもちろん目薬の中止です。

さて、皮膚に発疹ができて薬疹が疑われる場合があります。もちろん内服薬が疑われますが、点眼中だと目薬も疑われることになります。

確かに目薬が薬疹の原因となる場合はあります。しかし、目薬のアレルギーはふつう結膜やまぶたに起こるもので、そういう症状がないのに離れた皮膚にだけ薬疹が起こるのは、絶対ないとは言えませんが相当にまれなことです。

そもそも生じた発疹が本当に薬疹なのか検討が必要ですし、目薬以外に原因がないのか調べる必要があると思います。

目薬が全身に起こす副作用

目薬は内服薬に比べて量が少ないので、全身に副作用を起こす可能性は低いと言えます。同じ成分でも、内服薬だと心配だが、目薬なら構わないというケースは多いです。

例えばステロイドという抗炎症薬があります。糖尿病の人がステロイドを内服すると血糖が上がるので、血糖を何度も測ってインスリンを増量するなどの対策が必要です。ステロイドの目薬では影響は皆無ではないものの、そこまで心配する必要はないとされています。

ただ、量が少なくても起こりうる副作用があるので注意が必要です。

例えば緑内障にβ遮断薬(チモロール、カルテオロール等)という目薬が使われます。この系統の目薬を喘息の患者さんにさすと喘息発作を誘発する危険があります。内科の医師でも「目薬なら量が少ないので大丈夫」という先入観があるので、副作用だと判明するのが遅れることがあります。

本当に目薬の副作用なのか

何か症状が出たとき、目薬の副作用なのか否かを判断することは結構難しく、それが「副作用の時だけ起こる特有の症状」なら診断は容易ですが、たいていの場合「副作用でなくても起こる一般的な症状」なので副作用とは断定できないのです。

例えば緑内障点眼薬のアイファガンには「めまい・ふらつき」という副作用が知られています。そう説明すると「めまいがあるのは目薬のせいではないか」という方が非常に多いのですが、よくよくお話を伺うと、目薬を始める前からめまいがあったり、目薬を既に中止して時間が経っているのにめまいが治まらなかったり、因果関係は大半が否定されます。

目薬を使用した時期と副作用らしき症状が出た時期は合致していますか? この時間関係は重要です。これさえ明確ならだいだい判断できます。逆に、診察を受けてもそれだけでは副作用なのか否かの判断はつきません。

「副作用疑い」の場合

内服薬でも目薬でも、「副作用なのか断定できず疑いレベル」というケースが多いのです。確定診断には手間暇がかかって大変だからです。

他にいくらでも代替薬が存在する場合は、薬を中止してしまえばよいので話は簡単です。代替薬があっても、効き目が弱くなるとか別の副作用が心配だとか何か懸念があれば、慎重に検討します。

その薬を使わなくても治りそうなときも中止してしまいます。ただ、この場合、後日その薬を使う必要が出てきたときが問題です。薬の副作用か否かの検討が不十分なので、使ってよいのか悪いのか悩ましいのです。

自院で判断した場合は古いカルテを見直して判断しますが、他の医療機関で「副作用疑い」と言われた場合は困ります。疑いの程度も不明なので、どうしても使いたいときは「副作用が出るかも知れない」旨を説明した上で使います。実際は副作用が出ないことが多くて、「疑わしきは罰せよ」みたいな感じで犯人扱いされているケースが多いことがわかります。

疑いだけでどんどん薬を使用不可にしていくと、当然のことながら使える薬が少なくなってしまい、病気の治療にさしつかえます。

副作用があっても使用継続

副作用が明らかであっても薬を使い続ける選択をすることもあります。

たいていは副作用が軽微で我慢できる範囲と判断されるときです。例えば目薬を使っていると角膜のキズはしばしば起こります。ほとんどの目薬の添付文書に記載されている副作用です。程度が軽ければ使い続けます。薬を使い続ける利益のほうが大きいと判断されるからです。

他に代替薬がない場合も使い続けます。眼科で多いのは「散瞳剤アレルギー」です。散瞳は診察上どうしても必要なのに代わりになる薬がありません。洗眼したりステロイド点眼薬を使ったりして対処します。

インフルエンザと異常行動

話は変わって、以前タミフルというインフルエンザ薬が「建物から飛び降りるなどの異常行動を起こす」として非難が集中しました。その後の研究で、他のどのインフルエンザ薬でも異常行動が見られること、薬を全く使っていない場合でも異常行動が見られることがわかりました。

マスコミ報道がタミフルを完全に犯人扱いしていたのは勇み足だったと私は思います。

子宮頸癌予防ワクチン

子宮頸癌予防ワクチンの接種後に慢性疼痛を起こす副作用が問題になり、現在このワクチンを打つ若い女性は激減し、1%以下です。

不思議なのはこのワクチンが世界中で広く使われているにもかかわらず、日本だけに突出して重篤な症例報告が多いことです。WHOやCDCなど日本以外の保健機関は軒並みワクチンとの因果関係は否定的として接種勧奨を続けています。

日本のマスコミが犯人扱いした副作用報道は正しかったのでしょうか? このままだと世界中で日本だけが子宮頸癌が減らない国になりそうです。毎年2,700人が死亡しているというのに。

ちなみに日本では麻疹ワクチンも副作用ばかり強調して報道された結果、接種を受けない人が多く、先進国では唯一の麻疹流行国です。2001年の流行時には30万人罹患、80人死亡したそうです。

(2018.11)