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川本眼科だより

川本眼科だより 230わかりやすい説明とは 2019年3月31日

患者さんに治療方針をできるだけ理解していただくよう説明するのは当然のことですが、これは何度繰り返しても難しいものだなと感じます。

現実の外来は混雑しすぎて、一人一人毎回毎回丁寧な説明をするのは不可能です。手短に、でも大事な情報はきちんと伝わるように、できるだけ工夫して説明いたします。

患者さんの反応は一人一人異なるので、その人に合わせて説明内容を変える必要があります。

詳しい説明が必要なとき

簡単な病気でも説明は必要ですが、外来が混雑していて2時間待ちになっているような状況では、数日で治りそうな病気の説明にそうそう時間をかけてはいられないという事情はご理解いただけると思います。

しかし、どんなに混んでいても、たとえ他の患者さんをお待たせすることになっても、きちんと説明しておかなければならない事項はあります。

例えば緑内障の治療を始めるときです。緑内障は自覚症状がほとんどありません。そのため本人がきちんと理解していないと病気を軽視して通院を中断したり目薬を中止したりすることが頻発します。ある研究によれば治療開始1年後には約半数が通院を中断してしまうそうです。治療継続のためには最初の説明が決定的に重要なのです。

そのほか手術を説得するときとか、複数ある治療法の中から選択しなければならないときとか、患者さんが重要な決定をしなければならないときにも詳しい説明が必要です。他院で医師の説明が不十分で不信感を募らせているような場合にも丁寧な説明は不可欠ですね。

長すぎる説明は頭に入らない

さて、それでは説明は詳しければ詳しいほどよいのでしょうか? 実は私はむやみに詳しくても患者さんには伝わりにくいことを経験してきました。むしろ大事なことに絞ってポイントを押さえた説明のほうが伝わるのです。

患者さんの権利意識の高まりもあり、医療訴訟が増えたせいもあって、医師の説明は昔に比べてはるかに詳しくなったと思います。事前に説明をしないで副作用などマイナスの結果が起きた場合、医師が責任を問われるからです。

その結果、手術の前などには、めったに起こらないようなことまですべて網羅的に列挙する方式の説明がされるようになりました。これは日本より訴訟社会アメリカで顕著で、説明した証拠を文書で残すことが何よりも重視され、数十ページに及ぶ長い説明文書を読み上げた上で患者の署名を求めるのです。

こういうやり方は、訴訟対策としては有効なのでしょうが、「患者さんに大事なことを理解していただく」という点では問題があります。説明があまりにも長すぎて、どこが大事なポイントなのか患者さんは把握できません。聞き流すだけで頭に残らないのでは何のための説明でしょう?

強調と省略でメリハリをつける

例えば生命保険に加入する場合を考えてみます。保険の内容は約款にすべて書いてあるわけですが約款は長すぎて、読んでもよく理解できません。大事なことを強調し、逆に細かい点を大胆に省略した宣伝用パンフレットのほうがはるかに理解を助けてくれます。

患者さんへの説明も同じです。短く、端的に、大事なことに絞って話すと伝わりやすいのです。めったに起こらないことや瑣末な事項は省略するほうが「一番大事なこと」「最も伝えたいこと」を浮かび上がらせ、それだけ内容がわかりやすくなります。何を強調し、何を省略するかが大切だと考えます。

相手によって説明を変える

当然のことながら、相手によって説明内容は変える必要があります。

複雑な話でもきちんと理解していただける相手には、なるべく省略せずに細かいことまで説明します。例えば医師相手なら専門用語を駆使して正確な話をすることが可能ですし、逆に医師なら常識という事項は省略してしまいます。医師でなくても緻密で論理的な説明を好む人にはそのように説明します。

少し複雑になると混乱してしまったり、聞いたことをすぐ忘れてしまうような方には「このまま放っておくと目が見えんようになるから手術しましょう」くらいのまことに大雑把な説明で済ますしかないこともあります。

ただ、正直な話、医療訴訟が増えているご時世ですので、術前などでは、たとえ相手がよく理解していないと感じていても 一通りの説明はしています。説明義務を果たしたというアリバイ作りみたいなものですが。

過剰反応

説明の一部に強く反応して、その点にひどくこだわる方がいらっしゃいます。医師にしてみると大事な箇所ではなく、付け足し/枝葉部分なのに意外な反応をされて困惑することがあります。

多くの場合、頻度や確率を「まれ」「めったにない」「・・の人もいる」などと述べているのに無視した結果、リスクの見積を誤っています。

例えば、多くの病気に広く使われ有用性の高いステロイドの目薬に対し、「眼圧が上がることがあるので回数を守り、1本使い終わったら必ず眼圧チェックを受けてください」と注意喚起すると、「そういう怖い薬は使いたくない」と断固拒否されて困ってしまうことがあります。

副作用を強調しすぎるとしばしば過剰反応を招き、有用な薬を拒否されて困りますが、かといって注意しておかないと使いすぎる人が出てくるので難しいところです。

説明を上手に引き出す患者に

会話はキャッチボールが大事です。医師は日々工夫して患者さんに説明していますが、患者さんの反応が悪いとどうしても通り一遍の説明になりがちです。

何かしら反応があると、相手の理解力に合わせて言葉を選んで説明することが可能になります。適切な質問があれば、それに回答する形で疑問に答える説明ができます。

医師の分かりやすい説明を上手に引き出す賢い患者になって下さい。そういうやり取りこそが理想的なインフォームドコンセントだと思います。

(2019.3)