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川本眼科だより

川本眼科だより 231検査を繰り返す理由 2019年4月30日

ときどき患者さんから「なぜ同じ検査を何度も繰り返すのか?」というクレームをいただきます。その方は要するに「無駄な検査を受けさせられている」と感じていらっしゃるので、こちらが検査の必要性を説明してもご納得いただけない場合が多く、患者-医師の信頼関係にも影響してしまいます。

普段の外来では時間を取って詳しくお話しすることが難しいので、この紙面を借りてご説明したいと思います。

検査結果は変動する

なぜ同じ検査を繰り返すかというと、答えは単純で、検査結果が変わるので、どのように変化しているか調べる必要があるからです。

一番単純な検査として「体重測定」を考えてみましょう。体重は毎日かなり変動していますし、測る時間によっても違います。体重の増減を知るために、健康に気をつかっている人やダイエット中の人は、毎日のように体重測定をします。

あるいは「血圧測定」を考えてみましょう。短い時間で血圧は変動します。そこで、何回か測定して平均を計算することが推奨されています。信頼できる測定値を得るためには繰り返し検査する必要があるのです。

視力でも眼圧でも視野でも、理屈は同じです。対象が「天井までの高さ」なら1回測れば十分です。数値は変わりませんから。変動する数字だからこそ測定を繰り返す必要があるのです。

どのくらいの頻度で測定を繰り返すかは、主に変動のしやすさと、測定結果の重要性で決まりますが、社会的には費用や労力も大事です。

安定期と変動しやすい時期

一般に、状態が安定していれば、検査を繰り返す必要は高くありません。半年後とか1年後とかかなり間隔を開けて検査を受けるよう指示することもありますし、「何か自覚症状が出たら受診して下さい」と指示することもあります。

変動しやすい時期には、検査は短期間で繰り返す必要があります。例えば急性緑内障発作なら眼圧は毎日測ります。1日のうちに複数回測定することもあります。データをみながら治療法も変えていくのです。

手術の後も変動しやすい時期です。特に最初の1~2週間はいろいろなトラブルが起こりやすい時期です。眼圧上昇、角膜障害、黄斑浮腫、感染症など様々な問題が起こります。幸い、医療技術の進歩により深刻な合併症を起こす危険性はずいぶん低くなりましたが、それでも注意深い観察が欠かせません。

先日、白内障手術を中京病院で3日前に受けられた方の通常の術後検査を一通り実施したところ、「病院からの情報提供書があるのにどうしてそんなにたくさん検査を受けなければならないのか」とご立腹でした。でも、術後1週間以内ならまだ状態が変動しやすいですし、機械が違えば測定値も微妙に異なるので、これは検査しないわけにはいかないのです。別に当院だけでなく、ほとんどの眼科で同じだと思います。

視野検査グラフでクレーム激減

視野検査は「同じ検査をなぜ繰り返すのか」というクレームの多い検査でした。疲れる検査なのでなるべくやりたくないという気持ちも強かったのだと思います。

ある時期から視野検査の結果をグラフで表示し、過去の結果と比較するようにしたところ、この種のクレームは激減しました。患者さんにも悪化しているか現状維持できているかが一目でわかり、検査を繰り返すことの必要性が実感できたのだと思います。説明にも工夫が大事ですね。

視力検査はなぜ繰り返す?

特に視力検査について「そんなに何度も検査を繰り返す必要があるのか?」と疑問を持たれている方が多いようです。

これは視力検査を「近視や乱視の検査」と捉えているせいだと思います。そういう側面はありますが、実は眼科医は視力を「眼疾患が発症したり悪化したりしたことを早期発見するための探査センサー」として使っているのです。

何事もなければ視力は安定していますが、逆にひとたび異常が起これば本人が気づかなくても視力が低下していることが多く、異常の有無を知らせるアラームになっています。毎回毎回たくさんの眼科検査を繰り返すことは不可能ですが、視力なら毎回検査可能です。眼科医は視力低下の原因を考え、追加の検査を指示します。

もちろん視力だけですべての異常を発見できるわけではないのですが、視機能に関係する部位の異常に敏感ですし、なにより安上がりなことが最大のメリットです。

安全を求めれば検査は増える

どのくらいの頻度で検査を繰り返したらよいのかは難しい問題です。

異常が起きたことをなるべく早く見つけるには検査間隔は短ければ短いほど良いのですが、通院して検査を受ける労力と費用を考えると検査間隔を長くしたいところです。不確定要素も多いので正解が1つに決まるというものではありませんが、医師が経験と勘でリスクを見積り、患者さんの希望を勘案して決めることになります。

ただ、検査間隔を長くし過ぎて病状の悪化を招いた場合に患者さんが受ける不利益は大きく、視力が下がって元に戻らないなど不可逆的なダメージを受ける恐れがあります。仮に10人中9人が大丈夫でも、1人が悪化するなら検査計画としては失敗です。現代日本では、高い安全性を見込んだ検査計画を立てる必要があり、そうするとどうしても検査は増えることはご了解ください。

新しい検査機器の必要性

昔に比べて今は検査機器が増えています。特に眼科は新しい検査機器が増えた科です。そのためしばしば「検査に頼りすぎ」「検査のし過ぎ」というご批判をいただくことがあります。

しかし、昔に比べて今ははるかに診断能力が高くなっており、昔は発見が難しかった病気が今は簡単に診断できることも多々あり、それは新しい検査機器が支えているのです。これからも最先端の眼科医療レベルを維持するために必要な検査機器は揃えていくつもりです。

ご理解賜れば幸いです。

(2019.4)