川本眼科だより 232SLT ~緑内障のレーザー治療~ 2019年5月31日
『SLT』という緑内障のレーザー治療を始めました。実際に使ってみるとSLTは利点が多く、もっと評価され、もっと使われるべき治療法だと感じます。
どんな治療法なのか、どういう人に適しているのかをご説明いたします。
LIとSLT
緑内障に対するレーザー治療は2つあります。 LI(Laser Iridotomy=レーザー虹彩切開術)は閉塞隅角緑内障の治療/予防に使われます。今回はLIについての説明はいたしません。(川本眼科だより179「緑内障発作を予防する」参照)
SLT(Selective Laser Trabeculoplasty) は主として開放隅角緑内障に対して行う治療です。ちなみに単に「緑内障」と言われている方のほとんどは開放隅角緑内障ですので、たいていの緑内障患者さんが治療対象になりうると考えて間違いありません。
眼圧を下げる方法の1つ
緑内障では眼圧が高いほど視野が悪化しやすいことが分かっています。そこで「眼圧を下げることによって視野が悪化するのを遅らせる」という治療をします。他に確実な治療法はありません。
眼圧を下げるには4つの方法があります。目薬、のみぐすり、レーザー、手術です。
SLTは眼圧を下げる方法の1つです。眼球内の液体を房水と呼び、房水が流れ出す出口を隅角と呼びます。SLTでは隅角にレーザーを照射することで房水の流出を増やします。
SLTは痛くないし簡単
眼科で行うレーザー治療はいくつもあり、中には多少痛いものもありますが、幸いSLTは痛くありません。
外来で簡単にできます。SLT自体は10分もかかりません。ただし治療前後に目薬をさしたり眼圧を測ったりするので約2時間みて下さい。
術後の生活制限もありませんし、点眼の必要もありません。術後一過性に眼圧が上昇することがあるので2回くらい受診が必要です。
費用は1割負担なら約1万円、3割負担なら約3万円です。目薬なら1回1回は安く済みますが、処方のたびにお金がかかりますから、SLTと目薬のどちらが高くつくかは一概には言えません。
問題はSLTをしても眼圧が下がらない人がいることです。7割の方で有効だったと報告されています。効果がなければ目薬など他の治療をします。ただし、目薬でも手術でも効きが悪い場合はあるので、SLTだけの問題ではありません。
目薬で治療を始めるのが普通
目薬は緑内障で眼圧を下げる最も一般的な治療法です。一般的に、まず1種類の目薬をさし、それで効果が不十分なら2種類に増やし、それでも不十分なら3種類に増やします。
のみぐすりはしびれなど全身の副作用が出やすく、短期間で早く眼圧を下げたい場合によく使われますが、長期にわたって使い続けるには適していません。
手術は最も強力な眼圧を下げる手段です。他の方法でダメなら手術するしかありません。ただし手術には合併症を起こすリスクがあります。術後には頻繁な通院が必要です。術後何年も経ってから感染症を起こす心配もあります。慎重にならざるを得ないのですが、医師が緑内障手術を勧める場合はリスクをすべて承知の上でそれでも必要と考えて勧めているので、頑なに拒否するのは得策ではないと思います。
SLTの位置づけは後述します。
目薬をさせていない現実
目薬はきちんとさし続ければ有用だと分かっているのですが、実はきちんとさせていないケースが続出し、緑内障が進行・悪化してしまっているのが悲しい現実です。
まず、目薬を上手にさせないという問題です。高齢者にとって目薬をさすのは相当な難題です。本人がさせていると言っていても、目の前でさしていただくと全く目に入っていないことも多いのが実態です。学会でも問題になっています。
次に、さし忘れの問題です。これも患者さんに伺うと「きちんとさしている」という答えが返ってくるのですが、きちんと点眼していればありえないぐらいに目薬が長持ちしていて、数日に1回くらいしか点眼していないと推定されることも多々あります。
目薬の種類が増えるとさし方がいい加減になることもはっきりしています。1種類だけなら真面目にさしていても、2種類になった途端、きちんとさせない方が激増します。
「複数の目薬を長期にわたってきちんと使い続けること」は想像以上に困難なことなのです。
SLTは目薬問題への解決策に
SLTは「目薬をさせていない問題」への解決策になると思います。正直なところ、高齢の方に点眼指導してもなかなかできるようにはならないですし、さし忘れる人に説教したり点眼の重要性を説明したりしてもその効果は長続きしません。家族に点眼をお願いしたら劇的に眼圧が下がった経験もありますが、多くの場合、家族の協力を得ることは難しいのが実情です。
SLTには全く眼圧が下がらない場合があるという大きな問題がありますが、眼圧が下がった人ではその効果は2年くらい持続します。その間は目薬をささずに済んだり、2種類さすべきところを1種類に減らしたりすることができるわけです。
SLTの効果が薄れてきた場合は繰り返し実施することもできます。
SLTをもっと早く
SLTはだいたい目薬1種類と同等の効き目だと思います。目薬をさす場合、1種類目が最も眼圧が下がりやすく、2種類目は下がりが悪くなり、3種類になるとほんの少ししか下がらないのが普通です。
SLTの効き目も同じです。最初からSLTを実施すると眼圧がよく下がりますが、3種類も4種類も目薬をさしている方にSLTを実施しても効きにくいのです。
今まで目薬を優先して使い、3種類さしても効果が不十分な場合にSLTや手術というやり方でしたが、これではSLTの利点を十分活用できていません。眼科医の間でSLTの評価が低かったのもこのせいだと思われます。
目薬を使うより前にSLT、あるいは目薬を2種類に増やす前にSLTを試すことで、その実力を最大限に発揮してくれると期待しています。
(2019.5)