川本眼科だより 244ウェブ学会 2020年5月31日
新型コロナウイルスCOVID-19のために各種学会や講演会が軒並み中止となりました。人と人との接触をできるだけ減らすためです。
その代わりに、インターネットを使って人が集まらずに学会を開催する試みが始まっています。実際に経験して利点と欠点が見えてきました。
ウェブ学会とは
ウェブ学会は、通常なら学会会場に人を集めて行う講演を、インターネットで配信するものです。別名がいろいろあり、インターネット学会と呼んだり、オンライン学会と呼んだりします。結局は同じことを言っているのですが、用語がまだ統一されていません。ここでは人が集まる普通の学会のことをリアル学会と呼ぶことにします。
ひと昔前の学会では、ポジフィルムでスライドを作り、発表していました。これは絶滅。
現在の学会では、パワーポイント等のプレゼンテーションソフトによりパソコン上で資料を作成、それを学会場のスクリーンにプロジェクターで映写します。映写する1枚1枚の画像をスライドと呼んでいます。昔の用語を準用しているわけです。
講演者はスライドを見せながら口頭で説明を加えていきます。講演の後には質疑応答の時間が設けられます。
今のスライドは元々がパソコンのデータですから、これをインターネットを使って配信することは比較的容易です。もちろん動画の扱いなど加工したり工夫したりする必要はありますが。
講演者の口頭での説明を録音してスライド毎に流すこともできます。そこまでやれば、内容的には通常の学会発表と遜色ありません。
日本眼科学会がウェブ開催
日本眼科学会は眼科で最大級の全国学会です。昨年の参加者は7600名超。今年は東京で開催予定、川本眼科からも4名が参加するはずでした。でもコロナウイルスCOVID-19のためにあえなく中止、代わりにウェブ学会となりました。
ウェブ講演というのは今までも視聴したことがありますが、これほど大規模な学会にオンラインで参加するのは初めての経験です。
利点はたくさんあった
ウェブ学会を経験してみると、リアル学会よりも優れている点がたくさんありました。
時間と距離の問題が解消します。開業医はなかなか休診にできず、多くの学会への参加をあきらめています。参加する場合でも、金曜土曜に開催される学会が多いので、金曜はあきらめて土曜だけ参加したりします。ウェブ学会なら「遠方だから移動に時間がかかりすぎる」という問題もなく、昼間は普通に診療して夜間参加するなんて芸当も可能です。
費用も安く済みます。交通費も宿泊費も要りません。運営する側は会場費が不要になります。今回は突然の中止で会場のキャンセル料がかかり、結局返金されませんでしたが、最初からウェブ開催ならば運営費は相当安くなるはずです。参加者は増えると見込まれ、学会参加費も安くできるでしょう。
スライドが見やすいのも利点です。普通の学会では、前の人の頭が邪魔になったり、広い会場で後ろの席では細かい字が読みにくかったりします。ウェブ学会ではすべての人が特等席です。
聴きたい講演をすべて聴講可能なのも利点です。日本眼科学会は10会場で講演が同時進行します。聴きたい講演が複数重なると1つを選ぶしかありませんでした。
つまらない講演なら飛ばし見したり、中断して別の講演にさっさと切り替えることも容易です。リアル学会では途中退席には気をつかいます。
リアル学会の利点
ウェブ学会には利点が多いことを経験しましたが、もちろんリアル学会のほうが有利な点も多々あります。
直接対面しての交流はリアル学会の利点です。やはり実際に会うことが相互理解や信頼の醸成には大事です。学会以外で遠方の専門家に会う機会はなかなかありません。
質疑応答も利点です。今回の日本眼科学会では質問できませんでした。チャットやメールのような形で工夫すれば質疑応答も可能にはできるはずです。でもやっぱり直接会って訊くのとは大きく違います。
医療機器の展示もリアル学会でしかできません。インターネットで情報は得られても、実際に触れてみたり操作性を確認してみたりしないとわからないことが多々あるのです。メーカーの担当者と顔見知りになり、直接話を聞く機会は多忙な医師にとって貴重です。
医学書の販売もリアル学会ならではです。もちろんウェブ学会に本の販売コーナーを設けることはできますが、ネット注文なら何も学会期間中である必要性はありません。眼科の専門書が所狭しと並び、手に取って実際に中身を確認することができることが重要です。
同じことが利点にも欠点にも
ウェブ学会なら休診にしなくても参加できるのは利点ですが、それは学会中も診療や雑用から逃れられないという欠点でもあります。リアル学会なら休診にしてしまっているので学会に集中できますが、ウェブ学会では邪魔がたびたび入ります。
つまらない講演はさっさと中断して他にいけるのはウェブ講演の利点だと説明しました。しかしつまらないようでも我慢して聴いていると何かしら得るものがあるものです。学校の勉強と同じで、ある程度強制力が働かないと人間どうしても易きに流れやすいものです。
物事には表裏の両面があるのですね。
ウェブ学会とリアル学会は共存
新型コロナウイルスCOVID-19の影響で、当分の間はどの学会もオンラインで開催されるでしょう。感染が収束すればリアル学会に戻る場合が多いと予想しますが、ウェブ学会も残ると思います。いろいろ利点が多いからです。特に参加者が少なく予算に余裕がない学会はウェブ開催を選ぶことになるでしょう。
開業医の立場からすると、年何回も遠方で開催されるリアル学会に参加することは難しいので、ウェブ学会はありがたいです。リアル学会でも今後はウェブ学会の利点を取り入れ、講演を録画してインターネットで配信してはどうでしょうか?
いわば折衷方式ですが、検討に値すると思います。オンラインでの参加者が増えれば運営収入も増えるわけですし、メリットは大きいと思います。
2020.6