川本眼科だより 245コロナ下の眼科診療 2020年6月30日
新型コロナウイルスCOVID-19の第1波は収束傾向にあるようですが、第2波に対する警戒が呼びかけられ、「新しい生活様式」が推奨されています。流行前に戻るわけにはいかないようです。
眼科診療はどうすればよいのでしょうか?
これからの眼科診療を考えてみました。
感染防御態勢は?
当分の間はコロナウイルスが市中に潜んでいると考えなければならず、感染を警戒しながらの診療をせざるを得ません。コロナはそれほど感染力が強いとは言えませんが、症状がなくても他人に感染させる危険性があるのが厄介です。
マスクを室内で全員着用することはコロナには最も効果的なのではないかと考えています。幸い、眼科ではマスクを外さずに検査や診察ができるので、感染リスクは高くないとみてよいでしょう。
フェイスシールドも試してみました。眼表面や眼底を観察するときに邪魔になって病変が良く見えません。眼科医には向かないと悟りました。
アクリルパネルも買ってみましたが、換気を妨害する欠点があり、結局お蔵入りです。
エタノール(エチルアルコール)の深刻な入手難で、手指以外はイソプロピルアルコールを使っています。これは眼科医会が推奨する消毒剤でもあります。次亜塩素酸水の生成器も買ってみたのですが、効果に疑問が出され、信頼できる結論が出されるまでお蔵入りになっています。
換気扇は最強にしていて、窓が閉まっていても15~20分で院内の空気は入れ替わります。さらにエアコンで冷房していても1時間に1回窓を全部開けています。
オンライン診療は?
コロナウイルスの感染拡大を防止するため、緊急避難としてオンライン診療が拡大しています。 しかし、オンライン診療では、患者さんの訴えを聴き、顔色を見たり、体調の悪さを推測したり、皮膚表面の病変を観察したりすることしかできません。わかることは限られています。それだけで診断できる場合があることは否定しませんが、大半の病気ではそれで診断をつけるのは困難です。誤診の危険も相当に高いと思います。
一度きちんと一通りの診察や検査をしてあって、きちんと診断がついている場合ならばオンライン診療も許されるでしょうが、初診からオンライン診療で検査もなしに投薬というのは無理があると感じます。初診のオンライン診療では、話を聞いて実際に対面で受診する必要があるか否か振り分ける程度ではないでしょうか?
オンライン診療に相性が良い科とそうでない科があります。例えば皮膚科ではスマホのカメラで撮った写真だけで診断できるケースはかなりあるでしょう。また、内科では、とりあえず話を聞いて緊急性を判断することは可能だと思います。
眼科はオンライン診療には全く向いていません。視力も眼圧もオンラインでは測れないですし、基本の診察も拡大して奥まで観察する医療機器を使う必要があります。オンライン診療は無理です。
受診控えのリスク
緊急事態宣言の間は多くの医療機関で受診控えが発生し、外来はどこもガラガラになりました。みんな院内感染を恐れた訳ですが、受診控えにはいろいろと問題があります。
常用薬を切らしてしまうと病気が悪化する心配があります。何か問題が起きた時の対処も遅れてしまいます。網膜剥離だった方など、もっと早く受診していれば結果も違ったと思われるケースが実際にありました。
迷うときは電話で医療機関に相談するのが良いでしょう。自己判断は時に危険です。
家庭用眼圧計が実現すれば
緑内障では眼圧をコントロールすることで病気の進行を抑制しています。当然、眼圧を頻繁に測定したほうが良いのです。
緑内障では毎月眼圧測定を推奨していますが、多忙な患者さんでは3ヶ月毎のこともあります。眼圧は変動しやすいですし、眼圧上昇に気づかない危険もあり、間隔があくのは本当は心配です。
コロナ流行下では緑内障でも受診控えが目立ちました。目薬が切れても受診しなかったり、目薬処方だけ希望して眼圧測定すら拒否したりするのはまずいと思います。
眼圧については、家庭用眼圧計が実現し普及すれば解決すると考えます。現在実験的な家庭用眼圧計はありますが、高価すぎるし使い勝手も悪いです。安くて使いやすい機械が開発され、血圧のように気軽に家で毎日眼圧を測定できるようになる日を夢見ています。それは緑内障診療の質を変える革命になるかも知れません。
AIでの問診に期待する
今、医療の分野では問診にAIを利用する試みが進んでいます。AIは大量の情報を集め、自己学習方式で能力を向上させることができます。
問診は重要です。患者さんのお話を聴き、それに対して的確な質問を返して必要な情報を収集するには、それなりの知識と経験とスキルが必要です。そして、問診には時間がかかります。
川本眼科では、まずスタッフが患者さんのお話を伺い、その内容から検査をして、その結果をもとに医師がさらに必要な質問を追加しています。
問診の一部をAIが代替してくれる可能性があります。経験豊富なスタッフの代わりになるかも知れませんし、受診前に家で問診の一部を済ませておくこともできます。
これが実現すれば、患者さんの院内滞在時間を短くすることが可能になり、コロナなどウイルス感染症対策の一助になるでしょう。さらに、問診の質を高めることも期待されます。
その他コロナと眼の話題
コロナウイルスによる結膜炎は 0.8%と報告されています。通常の結膜炎と症状は同じで見分けはつきません。結膜炎だけ起こすことはまずないのであまり心配しなくて良いと思います。
コロナウイルスに対してヒドロキシクロロキンという薬が使われています。2~3年も長く使用すると網膜に副作用を起こす危険がありますが、短期であれば心配ありません。
名古屋市の小中学校の眼科検診は多くが秋以降に延期されました。秋には実施できると思いますが、ソーシャルディスタンスをできるだけ保って検診を行う必要があるでしょう。
名市大などでコロナ対策の診療制限が行われていましたが、現在はすべて解除されたようです。
大病院での手術も一時は「急ぐ場合以外延期」となっていましたが、現在は平常に戻りました。
(2020.6)