川本眼科だより 250配合点眼薬 2020年11月30日
最近、1つの目薬に2つの有効成分を配合した製品が増えています。これを配合点眼薬、配合剤、合剤などと呼んでいます。特に緑内障の治療用に配合点眼薬が多く登場しています。
配合点眼薬を使う利点は何でしょうか? 欠点はないのでしょうか?
内服薬より目薬で必要
内服薬(のみぐすり)にも配合剤はありますが、実はそれほど普及してはいません。内服薬なら、複数の薬を一度にのみこめますから、薬が2剤でも1剤でも大して変わりません。一包化と言って、同じ時間にのむ薬を1袋ずつパックすることもできるので困らないようです。
目薬を複数さすときには間隔を5分以上あけるよう指示されます。立て続けにさすと目薬が流れてしまってもったいないからです。これを守ると、3種類の目薬をさすには最低10分、4種類の目薬をさすには最低15分かかります。
「目薬を5分あけてさすのがとても大変」というお声はとくに高齢者の方から多くいただきます。短期間なら辛抱できても、緑内障の目薬は何年もさし続けなければならないのでなおさらです。
さし忘れも日常茶飯事です。次の目薬まで5分待つつもりが、ほかのことを始めてすっかり次の目薬を忘れてしまうのです。目薬の種類が増えれば増えるほどきちんとさせなくなることを実証した調査研究もあり、「目薬は3種類まで」が推奨されています。私も目薬はなるべく少なくと心がけていますが、やむを得ず5種類くらい使っているケースは結構あります。
配合点眼薬はこれらの問題を解決してくれます。内服薬よりも必要性が高いのです。
防腐剤も減らせる
目薬の多くにはベンザルコニウムという防腐剤が使われています。目薬の中に細菌が繁殖しないために必要なものですが、時に角膜障害を起こすことがあります。
複数の目薬をさすと防腐剤も繰り返し目に入り、それだけ角膜障害を起こしやすくなります。この問題への対策としても配合点眼薬は有効です。
緑内障の配合点眼薬
配合点眼薬の必要性を眼科医は昔から感じていていましたが、散瞳剤など少数の例外を除いてなかなか実現しませんでした。既存の目薬2種類を混ぜただけの配合点眼薬であっても、製薬会社は相当の費用をかけて臨床試験を実施しなければならなかったからです。
2010年に初めて緑内障用のザラカム配合点眼薬が登場しました。緑内障薬は薬価が高いので開発費用が捻出しやすかったのでしょう。緑内障では長期間点眼を続ける必要があるので配合剤が待ち望まれていました。
今では緑内障治療用の配合点眼薬は8種類発売されています。作用機序が異なる2つの成分を組み合わせることで、眼圧下降効果を高めています。
2つの配合点眼薬を作用機序が重ならないように選ぶと、2種類の目薬をさすだけで4つの有効成分を点眼できたことになります。点眼の負担は画期的に軽減できました。
それまで「緑内障の点眼治療は3剤が限度、それでダメなら手術」と言われていましたが、今では3種類5成分の目薬をさしているケースも珍しくはなくなりました。
緑内障以外は開発されず
例えば「抗菌剤+ステロイド」という組み合わせは眼科でとてもよく使われますが、配合点眼薬が登場する気配は全くありません。
どうも薬価が安いため、開発しても採算が取れないということのようです。残念です。
配合点眼薬のほうが効く?
配合点眼薬の効き目は、配合した目薬を別々にさすのと同じと考えられます。当然ですね。
理論的にはそうなのですが、眼圧下降薬2種類別々にさしていたのを配合点眼剤に変更してみると、眼圧が前よりも下がる人が多いのです。
これは、さし忘れが減るせいだと考えられています。過去の論文でも、目薬が1種類から2種類になっただけで、きちんと点眼できている人の数が大きく減ってしまうと報告されており、たぶん逆のことがおきているのでしょう。
PG+ベータはいつさすの?
緑内障配合点眼薬の半分はPG関連薬(ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト)とベータ遮断薬(チモロール、カルテオロール)の組み合わせです。 *ラタチモ、トラチモ、タプコム、ミケルナ
PG関連薬は朝・昼・夜いつさしても十分効果がありますが、一般的に夜点眼するのが普通です。ベータ遮断薬は朝さしたほうが効きます。となると理論的にみて、この配合剤は朝点眼すべきだと考えられます。
不思議なことに、臨床試験では朝でも夜でも効果は変わらなかったそうです。本当かなあ?
今でも私は結果に納得できなくて、「どちらかと言えば朝を推奨する」という立場です。
副作用は各成分の合算
利点の多い配合点眼液ですが、残念ながら副作用の点では、それぞれの成分を別々に指したときと変わりません。たくさんの成分をさしているわけですから、それだけ副作用が出やすいのは仕方がありません。
しかも、副作用が出た場合にどの成分が原因になっているか突き止めるのは結構大変です。例えばアレルギー症状が出た場合、すべての成分に可能性があり、全部やめてみて1つ1つ再開するなど、地道な作業をするしかありません。
まだまだ種類が少ない
10年前に比べるとたくさんの配合点眼液が使えるようになったことは間違いありません。
しかし、いまだ緑内障治療しかその恩恵を受けられない状況です。例えば白内障術後には3種類の点眼薬を使っている施設が多いと思いますが、3成分を混合した目薬1種類をさすだけでよければ患者さんはどんなに楽だろうと思います。
既存薬を組み合わせた配合剤なら、リスクもだいたい予想できます。規制緩和により、製薬会社がもっと容易に配合点眼薬を開発できるようになることを願っています。
(2020.11)