川本眼科だより 272近視進行予防コンタクト 2022年9月30日
だより253で近視進行を抑制する方法を5つご紹介いたしました。
1)近業を避ける
2)太陽光を浴びる
3)低濃度アトロピン点眼
4)近視進行抑制ソフトコンタクト
5)オルソケラトロジー
今回は 4)ソフトコンタクト について詳しくご説明いたします。
シード1dayPure EDOF というコンタクトを使います。
結論から申し上げると、近視の進行予防効果は高く、やってみる価値のある方法です。川本眼科として積極的にお勧めします。
周辺網膜でのピントずれを防ぐ
なぜ近視は進行するのでしょうか?
人間の眼にはもともと眼軸長(奥行きの長さ)を伸ばす仕組みが備わっています。この仕組みは周辺網膜で網膜後方にピントがずれると発動されます。人間は若干遠視で生まれてきて、この仕組みを使って正視になるのだと考えられています。
残念ながら眼軸長は伸びる一方で短縮することはありません。つまり眼軸長が伸びて近視になると元に戻ることはありません。
近く(特に30cm以下)を見ると網膜より後方にピントが合うのでこの仕組みが発動してしまい、眼軸長が伸びます。つまり近視化します。
近視でメガネをかけている場合、黄斑(網膜中心部)では網膜上にピントがあっていても周辺では後方にピントがずれた状態になっているために近視が進行してしまうのです。
そこで、周辺網膜で後方にピントずれを起こしにくいように工夫してやれば近視の進行を抑制できるわけです
近視予防CLと同じデザイン
海外には近視進行予防用として認可されたソフトコンタクトがあります。MYLOです。
MYLOは日本では認可されていませんが、実は同じレンズデザインの遠近両用コンタクトが存在します。シード1dayPure EDOF(イードフ)です。
どちらのコンタクトも様々な度数のレンズが年輪状に配置された多重焦点のレンズで、オーストラリアの Brien Holden Vision Instituteが開発したレンズデザインを採用して作られています。多少の違いはあってもほぼ同じもので、日本では医師の裁量により流用しているわけです。
年輪状に配置された様々な度数のレンズは、遠方にも近方にも中間距離にもピントを結ぶので遠近両用として使われます。同時に周辺網膜では網膜後方へのピントずれが減るように設計されており、眼軸長伸長の仕組みが発動しにくいのです。
普通に使えて保険診療
シード1dayPure EDOF は普通に近視用のコンタクトとして使えます。取扱いは通常のコンタクトと変わりありません。
ただ、今のところトーリック(乱視入り)がありません。乱視が強い場合、乱視矯正を優先するか近視予防を優先するか選択を迫られます。トライアルレンズで見え方を確認して決めます。
コンタクト診療として扱われますから、オルソケラトロジーとは違い、保険診療となります。もちろんコンタクトの代金はかかりますが。
シード1dayPure EDOFの効果
このコンタクトを使い始めてから数年になりますが、近視進行抑制効果は当初の期待以上でした。アトロピン点眼だけでは眼軸長の伸びを止められなかったお子さんが、コンタクト使用開始以後はぴたりと進行が止まることもしばしばです。そこまで抜群の効果が出るのは3割くらいですが、全体の8~9割で近視抑制効果はありました。
これは他の方法と比べてもとても良い成績です。
低年齢ほど効果は高い
このコンタクトはいつから始めるべきでしょうか? 私は「アトロピンを点眼していても眼軸長が伸びているようならなるべく早く」を推奨しています。
実は低年齢ほど近視進行抑制効果が高いことが分かっています。中学生になると効果はかなり弱まってしまいます。しかも、眼軸長の伸びは元には戻らず、累積効果があるので、早く始めれば始めるほど最終的に強い近視にならずに済みます。
当院で最も若いケースは8歳です。小さいこどもでも安全に装用できますし、1日使い捨てなのでケアの問題も特にありません。
できないときは成長を待つ
問題になるのは自分で装着・脱着(はめ外し)ができるかどうかです。装脱着ができるようになるまでは待つことにしています。装脱着は最初は苦労しますが、こどもは短期間で大人より上達します。できるかどうかは個人差が大きいです。
親御さんは積極的でも、本人がコンタクトを怖がって装着できないこともあります。本人がその気にならないと長続きしませんので、本人によく説明し納得してもらうことが大事で、無理強いはしてはいけません。
成長すれば、いつかできるようになります。
朝から晩まで、休日も
普通のコンタクトでは「家に帰ると外す」「休日はメガネで過ごす」という方も多いと思います。ドライアイなどの問題があれば装用時間を短くするよう指導されます。
しかし、近視進行抑制コンタクトの場合は、外していると眼軸長延長メカニズムが起動して近視化する恐れがあるので、「就寝時以外常時装用」がお勧めです。
もちろん、ゴロゴロするとか充血するとか不調があれば外すべきです。短時間外していてもそれほど影響はないので、無理をしないで下さい。
オルソケラトロジーは
オルソケラトロジーの近視進行抑制効果は有名ですが、当初は原理がわかりませんでした。
特殊な形状のハードコンタクトを就寝時に装着する方法で、角膜中央はフラットになりますが、角膜周辺は逆に厚くなるので周辺網膜ではピントが前方に来ます。その結果、眼軸長が伸びずに済むと現在は考えられています。
効果は、シード1dayPure EDOFとほぼ同等と考えています。施設によって結果が異なるので、正確な比較は難しいところです。
広く普及していますが、自費診療になり、最初に約15万円かかります。当院では取り扱っておりません。(紹介は可能です)
近視予防メガネは使えない
実はこのほかにも海外では近視進行抑制メガネというものが存在します。特にDIMSというメガネはかなり効果が高いと報告されています。
ただ、残念ながら日本は規制が厳しく、臨床試験をして認可されないと使えないのです。しかも臨床試験を日本で行う予定は全くなく、今後もこのメガネが使えない状況は続きそうです。
(2022.9)