川本眼科だより 274ドライアイの治療 2022年11月30日
目がショボつくとか、ゴロゴロするとか、目が重いとか、疲れるとか、何らかの目の不快感を感じている人は多いと思います。その原因は1つではなく、多くの因子が絡んだ複合的なものですが、最も多い原因はドライアイだと言われています。
目の表面は涙で保護されている
涙は目の表面にあって目が乾燥しないようにする働きがあります。涙は常に少しずつ分泌されていて、まばたきをすることで目の表面全体に薄く均一に広がります。まばたきをするたびに涙が更新されるので、目の表面は常に潤っています。
この仕組みは実によくできていて、知れば知るほどその精巧さに驚かされます。
涙は涙腺(上水道)から分泌され、涙道(下水道)から出て行きます。涙の分泌量は角膜(黒目)からの刺激によってコントロールされています。
涙がすぐ蒸発しないように2重のガードがあります。油の膜とムチンです。
マイボーム腺の油が涙を守る
涙の表面には極薄の油膜があって蒸発を防いでいます。この油を分泌しているのがマイボーム腺で、まぶたのフチに上下30~40個あります。
※だより21「マイボーム腺」
マイボーム腺の働きが悪くなると油膜ができにくくなります。若いときはサラサラした油が分泌されるのに、加齢に伴いラードのような溶けにくい油に変わっていきます。でもこの油は40℃くらいに温めると溶けるので、まぶたを温める方法はドライアイに有効です。
※だより112「眼を温める治療」 190「まぶたのケア」
ムチンが涙の蒸発を防ぐ
ムチンは粘液の主成分で、人体では口腔粘膜・胃粘膜・腸粘膜・気管支などあらゆる粘膜の表面に存在します。21種類ものムチンがあるそうです。
眼の表面では結膜のゴブレット細胞からムチンが分泌され、涙の水分と混じり合い、涙がしっとりと目の表面に広がるのを助け、同時に涙の蒸発を防いでいます。
加齢とともにムチンは減ります。
涙液減少型と蒸発亢進型
ドライアイは、涙の分泌量が減少すれば当然起こるわけですが(涙液減少型)、たとえ分泌量は正常でも涙が蒸発しやすければやはりドライアイになります(蒸発亢進型)。実際には両方の要因が複合して起きていることが多く、きれいに2つに分類されるわけではありません。
パソコン、スマホ、運転などでは瞬きの回数が大幅に減ります。エアコンを使用すると室内の湿度は低くなります。コンタクト表面の涙は薄くて乾きやすくなります。現代人の生活は蒸発亢進型のドライアイを増やすのです。
処方箋なしで買える目薬
薬局に行くとたくさんの目薬が売られていて、処方箋がなくても買えます。ドライアイ用と謳ったものもあります。そういう目薬と眼科で処方される目薬は何が違うのでしょうか?
薬局の目薬は、生理食塩水に近い成分の人工涙液か、保水効果のあるコンドロイチン硫酸です。細かい字で有効成分の表示がしてあるはずです。
人工涙液は単純な水の補充です。点眼したときには潤いますし、さし過ぎる心配もありません。問題は効き目が短いことで、点眼しても15分ほどで元に戻ってしまうと言います。
コンドロイチン硫酸は保水効果のある目薬です。人工涙液より長持ちします。ヒアルロン酸はさらに保水効果が高いのですが、要指導医薬品になり薬剤師の対面販売が義務づけられています。
ムチンを増やす目薬は2つだけ
眼科でもヒアルロン酸はよく処方しますが、最近ではムチンを増やすことを重視して治療するようになりました。ムチンを増やす目薬は2種類しかありません。ジクアスとムコスタです。これらの目薬は眼科を受診しなければ手に入りません。
ジクアスは、結膜ゴブレット細胞に働きムチンの分泌を促進させます。同時に涙の分泌を増やします。外から補充するより自分の涙の分泌が増えたほうが、効果が長続きします。
ムコスタは、ムチンの産生を促進するだけでなくゴブレット細胞の数自体を増やします。さらに目の表面の炎症を抑え、まばたきの際の摩擦を軽減させます。良い目薬ですが、1回使い捨て容器で少しさしづらく、点眼後のどに目薬が到達すると苦みを感じるので敬遠する人もいます。
両者はかなり作用機序の異なる目薬で、併用することも可能です。
ムチンは長期点眼で増える
ジクアスもムコスタも、一部の作用はすぐ効きますが、ムチンが増えるのには時間がかかります。自覚症状のあるなしにかかわらず毎日点眼し続けて下さい。2ヶ月きちんとさせばかなりムチンが増えますが、中止すると徐々に元に戻ります。気長にさし続けることが大切です。
ジクアスとジクアスLXの違い
最近(2022.11) ジクアスLXが発売されました。これは有効成分はジクアスと同じですが、PVPという成分を添加することで標準の点眼回数を1日6回から1日3回に減らした製品です。
さすがに1日6回は多すぎて用法通りにさせないことが多かったので、朗報です。ただ、薬価もジクアスの約2倍です。これからはジクアスLXを主に使うことになるでしょうが、自己負担額を気にされたり頻繁にさしたいと希望されたりする方には従来のジクアスを使います。
目の表面に炎症
ドライアイでは目の表面に炎症が起こることが知られています。欧米ではこの炎症が重視され、ドライアイの治療というとシクロスポリンという炎症を抑える目薬を使うことが普通です。
日本ではシクロスポリンの目薬は認可されていません。代わりに炎症を抑えるためにステロイドの目薬が使われています。
ステロイドの目薬がドライアイに有効なことは学会でも繰り返し紹介され、推奨もされています。しかし残念ながら、愛知県では保険審査で認められていません。認めている県もあるようです。
高い薬ではないですし、炎症を抑える代替薬もないので日常診療に支障が出ています。保険審査の運用を変更すれば済む話なので早く認めて欲しいところです。
(2022.11)