川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 279緑内障の進行因子 2023年4月30日

緑内障は日本の失明原因第1位です。発症すると普通は一生付き合わなければなりませんし、頑張って治療を続けていても徐々に進行していく厄介な病気です。

緑内障になりやすい人、進行しやすい人はどんな人でしょうか? いったい何が発症・進行に影響しているのでしょうか? 実は信頼性に疑問がある報告が多く、しっかり解明されてはいないのですが、私の現在の考えを説明いたします。

家族が緑内障だと

血がつながった家族・親族に緑内障の人がいると緑内障を発症しやすいことは間違いありません。様々な報告があって、結果もかなり違いますが、親や子が緑内障なら発症リスクは通常の3~9倍と見積もられています。

ただ、緑内障は遺伝病とは言えないようです。緑内障に関係する遺伝子はたくさん見つかっていますが、これはあくまでも「緑内障になりやすい体質」の遺伝で、緑内障かどうかを決定する単一の遺伝子があるわけではないのです。

タバコの影響は?

喫煙がどの程度緑内障に影響するか、信頼性の高いエビデンスはないようです。タバコは血流を悪くしますし、酸化ストレスも起こすので、当然緑内障を悪化させる要因になると予想されますが、その程度はそれほど大きいものではないのかも知れません。

しかし、タバコは緑内障以外でも目に悪影響があり、特に加齢黄斑変性や白内障などでははっきり進行因子だと判明しているので、私はやっぱり禁煙することをお勧めします

お酒の影響は?

適量のお酒なら緑内障への影響は心配しなくてよいでしょう。適量とは、厚労省によれば1日にビールなら1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度です。緑内障に限って言えばたぶんこれを多少超しても大丈夫だと思います。

ただ、極端に多量の飲酒を継続した人で視神経障害を招いたという報告があります。ウイスキーを毎日ボトル半分飲んでいたというレベルの話なので、普通の日本人の飲酒量なら大丈夫そうですが、はっきりとした許容量はわかりません。

お酒は、量はほどほどに、酔っ払うような飲み方は避けるのが賢明です。

コーヒーやチョコレートは?

ほとんど関係ないと思います。ネットの情報をみて心配される方が多いのですが、制限をする必要はないでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の影響

睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸停止発作を繰り返す病気です。この病気の患者さんは健常者に比べ、緑内障の発症リスクが高いことがわかっています。リスク2倍という報告もあれば10倍という報告もあります。

原因ははっきり解明されてはいませんが、恐らく無呼吸発作による低酸素状態が視神経障害を引き起こすのだろうと考えられています。

問題は、睡眠時無呼吸症候群は本人が自覚していない場合が多く、診断されずに放置されている人が大勢いることです。医療機関で診断された患者数は50万人程度ですが、潜在患者数は数百万人と推計されています。診断・治療を受けないでいて、知らないうちに緑内障を進行させてしまっている可能性があります。

いびきが大きい人は要注意です。自宅でできる簡易な検査法があります。次のウェブサイトから対応している医療機関を探せます。

https://659naoso.com/ (無呼吸なおそう.com)

血流や酸化ストレス

緑内障を進行させる因子として注目されているのが血流や酸化ストレスです。膨大な数の研究論文がありますが、残念ながら研究が臨床に応用されるに至っていないのが実情です。

そもそも、どうやって血流や酸化ストレスを調べるのか標準となる方法が決まっていません。また、血流や酸化ストレスに効きそうな薬があれこれと試されましたが、残念ながら緑内障に効くと証明できた薬はありません。

サプリメントなら効果をきちんと証明する必要がないのでたくさん出ていますが、正直なところ高いお金を払う価値があるとは思えません。

血圧を下げすぎると

多くの方が「血圧が高いと眼圧も高い」と思っていらっしゃるようですが、そういう単純な関係はありません。

目に血液を送り込む際に、眼圧は抵抗になります。眼圧が高いと血流が悪くなるのです。緑内障に対して眼圧を下げる治療が有効なのは、視神経への血流を増やしているからだという説が有力で広く信じられています。

目に十分な血液を供給するためには、眼圧に打ち勝つだけの血圧が必要です。ですから、極端な低血圧は緑内障を進行させるのではないかと言われています。もともと低血圧の人は体が順応していますから心配する必要はありませんが、降圧薬を使って40mmHg以上血圧を下げたような場合は緑内障を発症・進行させる可能性があり、緑内障のチェックをしておいたほうがよいと思います。

この話をすると決まって「緑内障が怖いから明日から高血圧の薬はのまない」と過剰反応する人がいます。血圧の下げ過ぎには注意が必要ですが、血圧を適度に下げるのは健康に良いことは間違いありません。高血圧は、脳卒中や心筋梗塞を招き、深刻な後遺症を残したり命を脅かしたりするわけで、甘く見ないで下さい。

強度近視の影響

近視の方は緑内障になりやすく、近視の程度が強いほど発症・進行のリスクは大きくなります。そのリスクは軽度~中程度の近視なら通常の4倍、強度近視なら14倍だと報告されています。

強度近視の方では眼球が奥行き方向に伸展しているので、視神経が物理的に引っ張られて変形するために痛みやすいし、視神経への血流も悪くなりやすいと考えられています。

最近は、こどもの時に近視を進行させない治療が可能になっています。しかも低年齢ほど効果が高いです。長期間の取り組みが必要です。

大人になってからは、強度近視の方は定期的に検査を受けて下さい。検査の頻度は程度や年齢によりますが、半年~1年に1回くらいでしょうか。

近視による網膜・視神経の変化が強い場合、緑内障かどうかの判断は専門医でも難しく、OCTによる画像検査も助けにはなりますが決め手にはならず、視野検査が重要になります。

(2023.4)