川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 282近視矯正手術の現在(いま) 2023年7月31日

近視矯正手術にはいろいろな種類があります。よく知られているのはレーシックです。今でもきちんと適切に管理して手術を行えば良好な結果が得られる良い手術ですが、いくつか事件が起きて評判を落とし、手術件数は激減してしまって今でも回復していません。

その代わりにICL(有水晶体眼内レンズ)という方法が登場し、現在日本ではレーシックより手術件数が多く、約2倍になっています。

レーシックが急増した頃

レーシックは1998年頃始まり、メディアにたびたび「煩わしいメガネが要らなくなる夢の手術」などと取り上げられ、有名人が何人もレーシックを受けたことで認知度が上がりました。手術件数は年々うなぎ登りに増えて、2008年には45万件に達しました。この頃、美容外科を中心に数多くのレーシック専門施設が誕生しました。

まさに一世を風靡していたのですが、この急激な拡大自体に問題が潜んでいました。

施設間で料金引き下げ競争がおこりました。すると、安い料金でも採算を取ろうとして、安全面を軽視する施設が出てきました。

広告やインターネットでは、メリットだけを強調し、デメリットはほとんど説明しないという傾向が出てきました。自院を訪れた患者に対しても、逃さずに手術に誘導しようとして、デメリットを過小評価する説明をしたり、あるいは全く説明しないことさえありました。競争が激しくなるほどその傾向は顕著になりました。

さらに、手術すべきか慎重に検討が必要な人にまで、きちんと説明もせずに安易に手術してしまう施設もありました。

銀座眼科事件

2009年、銀座眼科でレーシックを受けた患者さんが集団感染をおこし、保健所が立入検査に入りました。手術器具の滅菌消毒が不十分、手術装置の点検をしていない、などの問題点が次々に見つかり、院長は禁固2年の実刑判決を受けました。

非難されるべきはもちろん院長ですが、過度な競争が背景にあったと思います。

訴訟や注意喚起

きちんとデメリットを説明していなかった施設は、説明義務違反として訴訟を起こされました。

2013年に、消費者庁はレーシック後に不具合が起こることがあるという調査結果を発表し、国民生活センターは「レーシック手術を安易に受けることは避け、リスクの説明を十分受けましょう!希望した視力を得られないだけでなく、重大な危害が発生したケースもあります」という注意喚起を行いました。

レーシックの激減

集団感染、訴訟、注意喚起でレーシックは評判を落とし、ネットで検索すると否定的な意見ばかり目立つようになり、手術件数は激減しました。2014年には5万件とピーク時の約10分の1となり、今も低迷したままのようです。

これは行き過ぎだと私は思います。確かに一部の施設で問題がありました。しかし現在は、問題のある施設は淘汰され、過度な競争は収まり、デメリットの説明もきちんと行われるようになりました。信用がおける施設を選べば、レーシックは今でも安全性も高く患者満足度も高い手術です。

レーシックからスマイルへ

現在はスマイルという手術が登場しています。角膜の切開が格段と小さくなり、その結果ドライアイを起こしにくくなっています。どちらか選べるならスマイルをお勧めします。 →だより170

ICLの登場

レーシックもスマイルも角膜の厚みを薄くして近視を矯正します。ICLは全く原理が異なり、人工のレンズを眼内に入れて度数を変えます。正式には「有水晶体眼内レンズ」と言います。

レーシック等で角膜を削ると、近視は軽くなりますが角膜の収差(乱視)は増えます。ICLは角膜を触らないのが利点です。また、レンズを取り出せば元に戻せるのも安心です。

比較的軽い近視にはレーシックやスマイルが良く、比較的強い近視ではICLが良いとされています。中程度の近視ならどちらもありです。

ICLがレーシックの2倍

ICLは価格が高いので、どちらでも良ければ普通はレーシックが選択されます。欧米ではそうなっていますが、なぜか日本だけICLを選択する人が多く、ICLの手術件数は今やレーシックの約2倍になっています。眼科医の目から見るとちょっと偏りすぎていると感じます。

たぶん、ネットの評判を見てレーシックを敬遠する人が多いのでしょう。悪い風評はいつまでも消えません。日本人は安全性に対する要求が厳しく、慎重ですから。

有名人がICLを受けた影響もありそうです。眼科医の説明よりずっと説得力がありますね。

手術を受ける?受けない?

近視矯正手術が廃れることはないでしょう。メガネなしで過ごせるのはやはり素晴らしい。

ただ、メガネやコンタクトで何の問題もなく過ごせているなら手術はお勧めしません。メガネのほうが度数変化や老眼にも対応しやすいですし。

手術するなら若いうちがお勧めです。45歳以降は老眼の問題がおこり、近くを見るために老眼鏡が必要になりますから、手術の意味が半減すると思います。60歳くらいになるともう白内障が始まりますから、白内障手術時に眼内レンズで解決を図るのがお勧めです。

近視矯正手術後の問題点

レーシックやスマイルでは角膜の厚みが変わるため、眼圧が低く測定されてしまうという問題があります。例えば真の眼圧は20だけれど測定値は13などということが起こります。眼球内部に器具を入れない限り真の眼圧を測る方法はありません。

緑内障では眼圧を下げて治療します。低い測定値で喜んでいたら、真の眼圧はずっと高くて視野の悪化が止まらないということになりかねません。レーシック後は緑内障管理に注意が必要です。

白内障手術を受けるときにも問題があります。眼内レンズの度数を決めるときに通常の方法が使えません。現在はレーシック後でも使える測定法や計算式が開発されたので何とかなりますが、なるべくレーシック後の白内障手術に経験豊富な施設で検査を受けることをお勧めします。

(2023.7)