川本眼科だより 298院長、結膜炎になる 2024年11月30日
30年ぶりに結膜炎になりました。診療をお休
みしてご迷惑をおかけしました。良い機会ですの
で、結膜炎についてご説明しつつ、どう対処すべ
きか考えていきたいと思います。
結膜炎の種類と感染のしやすさ
結膜炎にもいろいろ種類があります。
感染を心配する必要がない結膜炎もあります。
例えばアレルギー性の結膜炎なら全く感染のおそ
れはありません。花粉症が代表的ですね。
高齢者に多い慢性結膜炎も、一応細菌感染が関
与してはいるのですが、健康な眼に感染すること
はまずないと言ってよいでしょう。
感染するタイプの結膜炎でも感染力は様々で、
感染しにくいものもあるし、極めて感染力が強く
て簡単にうつってしまうものもあります。
今回、私がかかったのはアデノウイルス結膜炎
です。これは最も感染力が強い結膜炎です。
感染経路
同じ部屋にいるだけでうつることはありません。
空気感染ではなく、接触感染です。めやにや涙が
ウイルスを運ぶのです。結膜炎患者が目を触り、
その手でドアの取っ手やつり革や机の引出などを
触ると、そこにウイルスが付着します。ほかの人
が同じものを触って、その後で自分の目を触ると
感染してしまうわけです。
人間は無意識に目を触っていることが多いので、
この感染ルートを断ち切るのは結構大変です。な
るべく目を触らないように心がけ、こまめに手を
洗い、時々はアルコール消毒をしておく、といっ
た対策になります。私は普段から感染防止には気
をつかっていますが、それでもうつりました。
アデノウイルス結膜炎の症状
アデノウイルスにもたくさんの種類があります。
どの型のウイルスかによって症状も経過も微妙に
異なります。
共通しているのはめやにがたくさん出ること、
充血することです。角膜炎も起こすので、目がゴ
ロゴロして痛くなったり、見え方がぼけてしまっ
たりします。まぶたの裏側に「偽膜」という白色
の分厚い膜ができたり、まぶたがすごく腫れてし
まったりすることもあります。
私の場合、かなり重症の部類でした。両目とも
真っ赤になり、まぶたも腫れて、めやには多いし、
ぼやけて見えます。さすがに診療困難と判断して
急遽お休みしました。
院長休診中に受診された患者様には、後日再訪
をお願いしたり、長時間お待たせしたり、ご迷惑
をおかけして申し訳ありませんでした。今後はさ
らに感染症対策を徹底し、自分自身の健康管理に
も注意して参りたいと存じます。
結膜炎で働けるか
結膜炎にかかったとき、学校に行ったり、仕事
をしたりしてよいのでしょうか? アデノウイル
ス結膜炎は別名「はやり目」と言われるくらい感
染しやすく、大勢に感染を拡げるおそれがありま
す。特にめやにが多い時期は感染力も強いので、
学校や仕事は休んだ方が無難です。
ただ、感染経路を断てば感染しないわけでして、
感染対策に細心の注意を払えば、実は仕事するこ
とは不可能ではありません。こまめに手洗いし、
素手で触ることを避け、頻繁に使い捨て手袋を取
り替えるという対策になります。
ただ、こういう対策を徹底するのは想像以上に
困難です。わずかな不注意で人にうつしてしまう
ことになります。一般の方は、めやにが多い間は
休むことをお勧めします。
結膜炎の初期にはアデノウイルス結膜炎かどう
かわかりません。めやにが多ければアデノと考え
て対処したほうがよいでしょう。
結膜炎の診断方法
結膜炎は通常医師が目を拡大して観察すること
で診断します。重症で典型的な所見が見られれば
すぐ診断できます。
ただ実際には、受診時に大半の結膜炎は軽症で、
症状は充血とめやにだけ、典型的な所見は見られ
ないことが多いのです。そういう場合は、アレル
ギー性か細菌性かウイルス性かも断定することは
難しく、最初はとりあえず仮の診断をして治療を
開始し、経過を観察します。もし典型的な所見が
出現すれば明確に診断できますから、薬を変えた
り治療方針を変更したりします。
診断の助けになるのが、アデノウイルスの迅速
検査キットです。15分くらいで検査できます。た
だ、このキットでウイルス陽性と判定されればま
ず間違いないのですが、陰性の場合は100%信用
はできません。今使っているキットでは9割くら
いの陽性率で1割は診断できません。昔は7割く
らいだったのでずいぶん改善されてはいます。
どうしても仕事を休めないとき、このキットで
陰性なら条件付きで仕事を許可しています。めや
にが急激に増えるなど症状に変化があれば再検査
が必要だと思います。
結膜炎の治療法
結膜炎に対しては抗菌薬の目薬とステロイドの
目薬を併用するのが普通です。細菌性なら抗菌薬
が効きます。ウイルスには抗菌薬は効きませんが、
細菌感染の合併を予防することができます。ステ
ロイドは強い炎症症状を緩和することが期待でき
ますし、重症の結膜炎で起きやすい「角膜上皮下
混濁」という後遺症を防ぐことができます。
たぶん日本中ほとんどの眼科医がそういう治療
をしていますが、実は批判もあります。「ウイル
スには抗菌薬は無効で、かえって耐性菌を増やす
マイナスがある」「ステロイドを安易に使用する
と、真菌やアカントアメーバなどが原因の場合に
悪化させてしまう」等です。これらは重要な指摘
で、真剣に考える必要があります。
サンヨード
抗菌薬の代わりに「サンヨード」という目薬を
使う選択肢があります。ヨードは手術時の消毒に
よく使われています。消毒力は強力で、細菌にも
真菌にもウイルスにも効果があります。
原理上、ウイルス性結膜炎なら抗菌薬よりサン
ヨードのほうが有効なはずです。今回私も使って
みました。
実はサンヨードはあまり使われていません。保
険が使えず自費で、定価1本1650円です。高価な
のに、薬を希釈した後は3日間しか使えません。
希釈後ヨードの活性がどんどん低下してしまうか
らだそうです。結膜炎が治るまでの期間が劇的に
短縮されるわけでもなさそうで、1~2週間治療
すると数千円かかってしまいます。
現状だと、私も使うのをためらいます。保険で
使えるようにしてほしいところです。
(2024.11)