川本眼科だより 12白内障Q&A(1) 2001年2月28日
知人は白内障手術をしたのに、あまりよく見えないそうです。手術をしてもどうせ見えないなら、私も手術は受けたくありません。
白内障手術のあと、糸くずのようなものが飛んでいるのが見えて不快です。手術をした際に何か取り残したのではないですか。
視力は網膜や視神経で決まる
白内障というのは、眼球内にある「水晶体」というレンズの濁りです。白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、水晶体の替わりになる「眼内レンズ」を入れるという手術です。手術をすれば、当然光はたくさん眼の中に入ります。ですから、白内障以外に何も問題がなければ、手術をすることで1.0以上の矯正視力が得られます。
最近の白内障手術では、十分経験を積んだ術者が手術をすれば手術そのものがうまくいかないということはまずありません。99.9%くらい大丈夫です。しかし、手術がうまくいっても、矯正視力が向上しないことはありえます。
眼内レンズを通ってきた光は、網膜に達して像を結びます。網膜は、カメラで言えばフィルムにあたる部分で、もしも網膜の機能が落ちていれば、1.0という矯正視力は得られません。視神経は、網膜で見た情報を脳に伝えますが、ここに問題があれば視力は出ません。つまり、白内障手術のあとの矯正視力は、網膜や視神経の状態次第で決まってくるのです。(正確には角膜や硝子体の状態も関係します)
手術前には網膜や視神経を観察して、手術後によい矯正視力が得られるかどうかを検討します。
もしも、網膜の状態が悪ければ「残念ながら網膜の状態が悪く、白内障手術をしても視力が向上しそうにありません」と申し上げて手術をあきらめていただくこともあります。
しかし、網膜を観察しても、網膜の機能がどのくらいあるかの判断は大変難しいのです。「網膜の状態が少し悪い」という場合、眼科医は術後どのくらいの視力が得られるか予想を立てますが、これはあくまでも予想であって、結局のところ実際に手術してみなければ結果はわかりません。
事前の予想では「手術してもなかなかよい視力は出ないだろう」と考えていた患者さんで1.0の矯正視力が得られることもありますし、反対に「たぶん十分視力は出るだろう」と考えていた患者さんで術前視力と変わらなかった、ということもあるのです。
手術して視力が変わらない可能性もありますが、予想よりよく見える可能性もあります。少なくとも手術で明るく見えるようにはなります。ですから、白内障がかなりあるのに手術を受けないというのは得策ではありません。
白内障手術で飛蚊症が増える?
白内障手術のあと、「ゴミのようなもの」「糸くずみたいなもの」が目の前を飛んでいるように見えてうっとおしい、というのもよくある訴えです。
これは「飛蚊症」と言います。水晶体のうしろには「硝子体」という生卵の白身のような透明な物質が入っています。硝子体は加齢とともに濁りを生じます。この濁りが飛蚊症の原因です。硝子体の濁りが外から入ってくる光の通り道にあるため、網膜に影をつくるのです。
白内障手術により、濁った水晶体を取り除き、透明な眼内レンズに替えるので、それだけ外から入ってくる光量が増大します。そうすると、もともとあった硝子体中の濁りの影が強くなります。光が強くなれば、影もそれだけはっきり、くっきりするわけです。
つまり、白内障手術後に気になる飛蚊症は、ほとんどの場合、もともとあった硝子体の濁りであって、しかも濁り自体が増えたわけではありません。決して、水晶体の取り残しが見えているわけではないのです。この場合、だいたい術後早い時期に訴えがあります。
また、白内障手術をすると、厚みのある水晶体が薄い眼内レンズに置き換わるので、それだけ硝子体が前方に移動し、後部硝子体剥離(=網膜と硝子体の間が離れること)ができやすくなります。このとき硝子体に濁りが生じやすく、これが飛蚊症の原因になることもあります。
ただ、後部硝子体剥離は、白内障手術をしなくても、いずれおきるものです。いつかはおきるはずだった飛蚊症がおこる時期が、手術によって早くなったということです。
白内障手術では、水晶体しか操作しません。硝子体はさわらないので、硝子体の濁りはしかたありません。硝子体手術という、硝子体を取ってしまう手術をすれば、理屈の上では飛蚊症が取れるはずですが、侵襲が大きくメリットがないと判断されるので、実際に手術することはありません。
左右で差が出ることも
人間の目は、左右でよく似ていることが普通ではありますが、完全に同一ではありません。
網膜・視神経の状態が左右の目で違っていることはよくあります。ですから、手術をして左右で矯正視力が異なることは決してまれではありません。
また、硝子体の状態も左右で異なりますから、片目だけ飛蚊症を感じることもよくあります。
人間は左右の違いには敏感ですので、どうしても気になるでしょうが、あまり神経質にならないほうがよいと思います。もちろん、こういうことは、手術の出来不出来とは関係ありません。
日本眼科医会の患者さん向けパンフレットから三宅謙作先生「白内障と手術」、湯沢美都子先生「黒いものが飛ぶ-飛蚊症」にある図を使わせていただきました。
ここに謝意を表します。
2001.2