川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 33ゲームは目に悪いか 2002年11月30日

子供はテレビゲームが大好きです。かつてはファミコン、今はプレイステーションやゲームボーイでしょうか。おもしろいゲームだと、それこそ寝食を忘れて何時間でも飽きずにやっています。
 
親御さんは心配です。「ゲームは目に悪いのではないか」というご質問をよくいただきます。また、「目に悪いからゲームをしないよう、先生から言ってください」というご依頼もしばしばです。
 
本当にテレビゲームは目に悪いのでしょうか?

テレビゲームで眼精疲労

テレビゲームについてはっきりしていることは、長時間遊ぶと眼精疲労(疲れ目)をおこすということです。
 
眼精疲労(疲れ目)の程度を調べる方法としては、ピントの調節力を測る検査や、光が点滅しているかどうか答えさせる検査があります。
 
テレビゲームをした前後にこれらの検査をすると、近くにピントが合いづらくなったり、速い光の点滅がわからなくなって光がつきっぱなしに見えたりします。要するに、成績が下がります。このことで、眼精疲労がおこっていることが証明できます。
 
眼精疲労によって裸眼視力が一時的に低下することも知られています。矯正視力(レンズを使って一番よく出る視力)のほうはそれほど下がらないのですが、少し近視がある場合の裸眼視力の低下はかなり大きいことがあります。
 
つまり、短期的にはテレビゲームで視力が下がることはある、と言えるでしょう。

近視になるという証明はないが

ただし、テレビゲームによる裸眼視力の低下は、あくまでも一時的なものです。
 
子供の回復力は強く、ふつう翌日に影響を残すことはありません。
 
それでは長期的な影響はないのでしょうか。一般には、テレビゲームばかりしていると近視になると信じられています。しかし、このことをきちんと証明した論文はありません。眼科医の間でも、近視の進行とテレビゲームの間に因果関係があるとする見解と因果関係はないとする見解とがあって、結論は出ていません。遺伝的素因と環境要因の両方が関係しますし、あまりにも多くの要素がからんでくるので、研究が難しいのです。
 
私(院長)自身は、テレビゲームが直接近視を進行させるとは思っていません。
 
子供が近視になると、親御さんはすぐにテレビゲームのせいだと決めつけますが、実際にはテレビゲームを毎日のようにしていても近視にならない子供はいくらでもいます。
 
ただし、前述したように、近視がある場合にテレビゲームをすると、眼精疲労をおこして裸眼視力が出にくくなります。したがって、すでに軽い近視になっていて、なるべくメガネをかけたくないなら、ゲームをしないほうがいいでしょう。

 ゲーム脳の恐怖?

テレビゲームが近視を進行させるという証明はありませんが、脳に影響を与えるという本が出て話題になりました。
 
森昭雄著「ゲーム脳の恐怖」(NHK出版)によれば、ゲームの前後で脳波を測ってみたところ、β波が低下してα波と同じレベルになってしまうそうです。この脳波のパターンは痴呆の人と同じで、脳の「前脳前野」という創造性や人間らしさに関係する部分が働いていないためだと筆者は主張しています。
 
しかも、普通はゲームをするときだけこのパターンが出現するのですが、毎日毎日ゲームばかり長時間やっていると、いつもこの脳波のパターンとなってしまい、戻らなくなるというのです。筆者はこれを「ゲーム脳」と言っています。
 
もっとも、この本に出てくる事実は「ゲームをすると脳波のパターンが変化する」ということだけです。それが前脳前野の働きの低下を意味するというのは筆者の仮説にすぎません。同じデータに対し、いろいろな解釈が成り立ちそうです。
 
この本は、仮説に仮説を重ねてむりやり結論を出しています。おそらく、世間やマスコミの注目を集めるためだと思われます。ですから、この本に書かれていることを無条件で信じないほうがよいでしょう。あまりに乱暴な議論のしかたをみると、もともとのデータ自体も信用してよいか不安になります。
 
ただ、テレビゲームが脳に与える影響についての議論に一石を投じたとは言えるでしょう。

 子供にテレビゲームは良くない

前に述べたように、私(院長)は、テレビゲームをしたから近視が進行するという証明はないと考えていますし、「ゲーム脳」なる説もあまり信用できないと思っています。
 
しかし、子供がテレビゲームをするのを放任してよいとは思いません。むしろ、子供のためを思うなら、テレビゲームはできるだけ制限すべきだと信じています。
 
理由はいろいろありますが、最大の理由は、テレビゲームが子供たちの貴重な時間を奪うことです。ゲームの内容にもよりますが、一般にゲームを終わらせるには膨大な時間が必要です。終わるまではどうにも気になってしかたがないものです。本を読んだり、体を動かして遊んだり、といった子供の心身の成長に不可欠なことができなくなってしまうことを危惧します。
 
そもそも、ゲームは続きがやりたくなるように作ってあり、刺激も強いので、途中で自発的にやめるのは非常に難しいのです。そういう意味で、30分とか1時間とか時間を区切って許すというのはなかなか成功しません。
 
強い刺激のあとに、刺激の少ないことに精神を集中するというのも困難です。ゲームの興奮が続いているときに、心静かに何か考えたり、本を読んだりできるでしょうか。
 
そんなわけで、私は、自分の子供たちにはテレビゲームを全面的に禁止しています。

2002.11