川本眼科だより 40不眠には遅寝早起き 2003年6月30日
不眠でお困りの方は多く、川本眼科でもしばしば御相談をいただきます。
そこで、目の病気とは直接関係ありませんが、今回は不眠について取り上げてみます。
歳を取ると眠れなくなる
歳を取ると、若い時ほど眠れなくなります。
なかなか寝つけないですし、眠りが浅くなり、途中で目が覚めてしまうことも多くなります。熟睡感がないと訴える方も多くなります。
睡眠薬を使うと、確かに効果がありますが、使い続けていると、逆に、「睡眠薬なしでは眠れない」ということになりますし、「だんだん効きが悪くなって量を多くしないと眠れない」ということもおこりがちです。
眠れないのは、生活習慣が大いに関係します。まずは、生活習慣を改善しましょう。それでもダメなら、ある程度睡眠薬を使うのはしかたのないことだと思います。
眠れないことをあまり気に病むのはよくありません。眠れなければ眠れないでかまわないと居直ってしまうのが賢明です。不眠で死ぬことはないのですから。
体内時計と光
人間には「体内時計」というものがあります。体内時計にしたがってホルモンを分泌したり、体温を上げたり下げたりしていることがわかっています。眠りは体内時計と密接な関係があり、毎日周期的に眠気がくるのは体内時計の働きによるものです。
しかし、人間の体内時計の周期は、実は約25時間で、1日より少し長いのです。人間は、体内時計を毎日リセットし直しているのです。
体内時計をリセットする上で最も重要なのは光です。強い光は体内時計をリセットし、体を覚醒させ、眠気を起こりにくくします。
ですから、朝起きたら、まず、できるだけ明るくして、強い光を浴びましょう。外に出て太陽光を浴びるのが効果的です。朝、外でラジオ体操するというのは大変合理的な生活習慣と言えます。もし雨などで暗かったら、ありったけの照明をつけて明るくしましょう。体内時計をリセットさせれば、午前中なんとなくぼやっとしているなどということがなくなります。変な時間に眠気がおこることも少なくなります。
朝、きっちり体内時計を合わせないと、体内時計による体のリズムが後ろにずれてしまい、夜なかなか寝つけなくなってしまいます。
反対に、夜は照明を明るくしすぎないことです。明るくすると体内時計がリセットして、覚醒モードに入ってしまいますから、眠くならないのです。コンビニやパチンコ店などは非常に明るくしてありますから、夜そういう所に行くのは賢明ではありません。ホテルなどで、部屋の照明が暗くなっているのは、理由があったのですね。
眠くなってから寝床に入る
不眠で悩んでいる方の多くは、「寝床に入ってもなかなか寝つけず、悶々として苦しい」ということを訴えます。
そんな苦しい思いをする必要はなく、眠くならなければ、さっさと起き出して好きなことをしていればよいでしょう。あくまでも、眠くなってから寝床に入ればよいのです。
実は寝始めの睡眠の深さはとくに重要です。寝始めにノンレム睡眠(深い眠り)が3時間くらい集中的に現れるのが理想的とされており、これが熟睡感とも関係してきます。つまり、眠くなってから一気に寝る方が、浅い眠りが続くより良いのです。
眠れないからと言って、寝床に入ったままテレビを見たり、ラジオを聞いていたりする方もあるようですが、これは逆効果です。確かにそのまま寝てしまうことはあるのですが、刺激が続いていますから眠りが浅くなってしまいます。寝床はなるべく暗くし、寝ること以外何もしないほうがよいでしょう。
起床時間を一定に
大事なのは、就寝時間よりも起床時間です。
体内時計のリズムを守るために、起床時間はいつも同じにしなければなりません。
寝つきが悪いと、その分を取り返そうと、朝寝坊をする、寝床の中でぐずぐずするというのはありがちなことだと思います。しかし、朝寝坊が体内時計を遅らせてしまい、夜また寝られなくなるという悪循環をおこしてしまうのです。
就寝が遅くなり、起床がそのままなら、睡眠時間が短くなりますが、その分、睡眠が深くなるので、良質の睡眠が得られるのです。
つまり、「遅寝早起き」というわけです。
不眠の治療として「睡眠制限療法」という方法があるくらいです。これは、睡眠時間を短くすることで、眠りを深くするという方法です。眠りが制限されると、人間がもともと持っている「眠くなる物質(メラトニンなど)」が蓄積され、自然に眠くなるのです。
ですから、昼寝はできるだけしないほうが夜よく眠れます。昼にどうしても強い眠気が来る場合は、15分程度の昼寝をしましょう。あまり長く昼寝をすると、体温が下がって体がかえってだるくなってしまいますし、せっかくたまった「眠くなる物質」が消費されてしまい、夜の眠りが浅くなってしまいます。
体温を就寝前に上げておく
人間には、昼間活動している時に体温が上がり、夜入眠する際に体温が下がるという、体温のリズムがあります。この体温のリズムを守ることが快眠につながります。
そのためには、眠る3時間くらい前に体温を上げておくことが効果的です。体温を上げるには、運動する、食事する、入浴するなどの方法があります。表面だけでなく、深部の体温を上げる必要があるので、入浴ならぬるめのお湯に長くつかっている必要があります。
寝酒は眠りを浅くする
睡眠薬代わりに寝酒を飲むという方も多いのですが、実はアルコールは眠りを浅くするので、良質な睡眠が取れません。途中で目が覚める原因にもなります。寝酒はやめたほうがいいでしょう。
カフェインも眠れなくなる原因になります。就寝前に濃いお茶やコーヒーは避けましょう。
睡眠薬の作用時間
いろいろやってもどうしても眠れないなら、睡眠薬を使わざるをえません。
睡眠薬には長時間効くもの、短時間しか効かないものがあります。長時間効く薬は翌朝まで影響を残すことがあり、とくに高齢者では翌朝ふらついたりすることがあります。そこで、短時間しか効かない睡眠薬がよく使われており、確かに目覚めがすっきりしているのですが、一方途中で睡眠薬の効果が切れて、夜中に目が覚めることが多くなるという問題もあります。薬の効き方をみながら、必要があれば種類を変更します。
なお、川本眼科で睡眠薬を処方する場合は、他の医療機関で睡眠薬をもらっていないことを条件にさせていただいております。1つの医療機関が、患者さんの睡眠薬の使用量をしっかり把握し、責任をもって管理すべきだと考えるからです。
2003.6